こんばんは、「心の護身術」を読むOSSです。
少し前から、予備校のある女生徒から無視されている。
いや、無視されているというのは言い過ぎかもしれない。しかし、なぜかその子は僕と目を合わせようとしない。校舎であっても知らん顔。こちらが声をかけても気づかないふり。僕の担当コマ、名簿に名前はあってもいつもいない。
別にその子と何かトラブルがあったわけではない。予備校では忙しくはあるが楽しく仕事させてもらっている。しかし、人間相性というものがある。おそらく僕とその子は相性が悪いのだろう。
そもそも僕はヤンキー系とは相性が悪い。
その子が不良で法に触れるようなことをしているというわけではない。ただ先日、オタク文化の対極はヤンキー文化だという意見の文章を読んだからそのように言っている。彼女のつきあいのある人間を見ていると、オタクよりヤンキーの方が好きに違いないと思える。
昔から不良とは仲が悪かった。
いろいろ理由はあるが生理的に受け付けないものがある。以心伝心という。ヤンキー系の人間も僕をそう思っているかもしれない。彼女が僕と距離を置くのはそういう理由ではないかと思っている。不快に思いつつも、伝える力のない自分の無力を寂しく思う。その子にとって僕の存在、僕が今まで培ってきたものは無意味であるとは思えない。僕にはその子の人生をよりよいものにする何かが必ずあると思う。しかし、無理強いは逆効果だろう。
ここ最近そんなことを考えていたからだろう、昨日は補じょ校で大やけどをしてしまった。
一年生の授業中、1人の女生徒が遅れて入ってきた。
見たことがないからおそらく夏休みの間に入学したのだろう。補じょ校はいつでも入学できる。生徒が遅れて入ってくること自体はよくあることなのであまり気にとめなかったが、その子は席に着くやいなや、ずーっと隣の子と私語をしている。何度か口頭で注意したがぜんぜん改まらない。そんなはずないがまるで聞こえていないようだった。
そう、その時僕は件の予備校の生徒を思い出していた。
つかつかと私語をしている生徒に近寄る。生徒は僕の方を見ることなく、まったく意にかえすことなく私語を続ける。僕は無理に生徒の視界に入り唇に指を当て静かにするようにとジェスチャーした。
すると、生徒は黙ったのだが、心底僕をさげすむような目で、
「人の視界に無理矢理は行ってくるな。キメェ。人が話よるのに割ってはいるな。ウセェ。マジ、おまえムカツク」
そういって、生徒は視線をそらした。
予想を超える反応に一瞬思考が停止した。不快な反応をするだろうことは予想したが、初対面の人間に、しかも先生と呼ばれる立場の人間にここまで言うというのは僕の理解の範疇を超えていた。
ひっぱたくか…、出て行かせようか…、反論するか…
しばし迷ったが、何も言わず引っ込んだ。どのような対応をしても伝わらないものを感じたからだ。
そのまま授業を続けたが、なかなか感情を抑え、平常心を保てなかった。足が震えたり、声がうわずったり、支離滅裂な話をしたりしてしまった。そうしながら思った。「キモい」、「ウザい」。言われたのは初めてだ。なかなかに殺傷力のある言葉だ。確かに無理に視界に入り、静かにするようなジェスチャーをしたのは、キモかったかもしれない…
その後も、生徒は断続的に私語をし、「カラオケ行きたいねぇ」という話をしていたと思ったら、なんと歌い出したりした。何度も口頭で注意をしたが、どこ吹く風だった。
出て行け!
何度か口に出そうになったが、ここは補じょ校、相手が何者なのかわからない。ヘタな対応は生徒のためにならないのではないかと躊躇した。それになんだかんだいいながらも、生徒は板書を写していた。
授業が終わり、次の授業をしていると、その生徒と先生達がもめていた。
どういうわけか生徒は授業に出ておらず、それはそれとして、生徒の鞄が教室にあるとかで授業中の教室に入ろうとして、先生に止められていた。一度は思いとどまったようだが、すぐにまた入ろうとし、先生達と押し問答。
その様子を見ていた僕はなぜか、生徒の沸点が近いことを感じた。そろそろだな…、そして案の定、生徒はキレた。
「いい加減にしろ! おまえら! マジムカツク」
そう言って先生達を振り払い、睨みつけ、授業中の教室に入り、教室内の先生と生徒達の驚愕の視線の中、自分の鞄を取ると、先生達の制止を無視し、さっさとキャンパス出て行った。
後からキャンパス長に僕の授業であったことを報告し、生徒の情報を教えてもらったところ、補じょ校生徒、200人いる中で現在ナンバーワンの問題児だという。そして通常そのような生徒の親は「先生なんとかうちの子の面倒を見てください」と懇願するものだが、あの生徒の親に限っては、親もあんな感じだという。だから今、どういうふうに方向付けようかと思案中だという。
家庭環境か、これまでの生き方か、何にせよ、病気だ。いや精神的な障害だな、これは。
生徒の沸点が低く、すぐに限界に達することがなぜわかったのか、感じたとしかいえないのだが、生徒はストレスに極端に弱いことは間違いないだろう。だからちょっと気に入らないことがあると沸点を超える。超えると暴発する。口が。生徒の使う「キモい」、「ウザい」にしっかりした中身、その言葉が相手に与えるであろう影響への計算はないようだ。よくわからない自分の内面をその言葉に託しているだけなのだろう。そのように考え至り、またそれを言われたのが自分だけじゃく他の先生も言われていたことを思うと少し楽になった。
しかし、なかなか切り替えられない。今も不快な気分を引きずっている。
その日のお昼休み。鬱々とした気分で何気なく本屋によると「心の護身術」という本が目についた。
傷つくのはいい。しかし、それを引きずることなく、そこから何かを学び、次に活かせるようになりたい。ならないといけない。11年前の出来事を今も引きずっている自分を何とかしないと。
以上
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